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福岡高等裁判所 昭和63年(ネ)165号 判決 1989年7月20日

控訴人(原告) 上野桂治 外二名

被控訴人(被告) 日本国有鉄道清算事業団

主文

本件控訴をいずれも棄却する。

控訴費用は控訴人らの負担とする。

事実

一  控訴人らは、「原判決中控訴人ら関係部分を取消す。控訴人上野桂治、同太田信幸、同正中廣人が各自被控訴人との間に労働契約上の地位を有することを確認する。被控訴人は、昭和五八年五月一日以降毎月二〇日限り、控訴人上野桂治に対し、一か月金一六万円、同太田信幸に対し、一か月金一八万七六〇〇円、同正中廣人に対し、一か月金一九万一四〇〇円の割合による金員をそれぞれ支払え。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決及び右金員の支払を求める部分につき仮執行の宣言を求め、被控訴人は、主文と同旨の判決を求めた。

二  当事者双方の主張の関係は、次のとおり付加、訂正するほか、原判決事実摘示中控訴人らと被控訴人に関する部分のとおりであり、証拠関係は、原審及び当審記録中の書証目録、証人等目録記載のとおりであるから、いずれもこれを引用する。

1  原判決三枚目表八行目から九行目までの「国鉄改革法」を「日本国有鉄道改革法(昭和六一年法律第八七号、以下「国鉄改革法」という。)」と、同一一行目の「清算事業団法」を「日本国有鉄道清算事業団法(昭和六一年法律第九〇号、以下「清算事業団法」という。)とそれぞれ改める。同三枚目裏一一行目の「賃金を」の次に「賃金支払日である毎月二〇日限り」を加える。

2  同一五枚目裏五行目の「ならない。」の次に改行のうえ、次のとおり加える。

「また、このことは、国鉄が分割、民営化された後の新会社においては、その実質が国鉄時代と何ら異ならないものであるのに、いずれもその就業規則に「社員は、公職の選挙に立候補したとき及び当選の告知後は、直ちに、会社に届け出なければならない。社員は、国務大臣、国会議員、又は地方公共団体の長に就任したときは退職するものとする。社員が地方公共団体の議員その他の公選による公職の職務(前項に定めるものを除く。)を遂行することによつて、会社の業務に支障が生ずると判断される場合には、公職休職として取り扱う。」と定められていることに鑑みても、右のような一律不承認が違法であることは明らかである。」

3  同二八枚目裏一二行目の「いうべきである。」の次に改行のうえ、次のとおり加える。

「また、控訴人らの失職は、国鉄職員であつた控訴人らに対する国鉄における取扱いの問題であつて、国鉄が分割、民営化された後の新会社における取扱いが問題となつているものではないから、控訴人ら主張の新会社の就業規則上の取扱いが控訴人らの失職の効果に影響を及ぼすものでないことは、当然である。」

理由

一  当裁判所も、控訴人らの本訴請求はいずれも失当として棄却すべきものと判断するものであつて、その理由は、次のとおり付加、訂正するほか、原判決の理由説示中控訴人らと被控訴人に関する部分と同一であるから、これを引用する。

1  原判決三〇枚目裏四行目及び同三一枚目表一行目の各「抗弁」をいずれも「答弁」と改める。

2  同三一枚目表七行目の「同月」を「昭和五八年四月」と、同一一行目の「法律の」から同一二行目の「た職」までを「法律の定めるところにより当該選挙にかかる議員又は長と兼ねることができない職」とそれぞれ改める。

3  同三三枚目裏八行目の「「市町村の」から同九行目の「でない」までを「「市(特別区を含む。)町村の議会の議員である者で総裁の承認を得たものについては、この限りでない。」」と改める。同一一行目の「ものである。」の次に「国鉄は、国が国有鉄道事業特別会計をもつて経営している鉄道事業その他一切の事業を経営し、能率的な運営により、これを発展せしめ、もつて公共の福祉を増進することを目的として、国鉄法により設立された(一条)公法上の法人(二条)であり、国鉄は、右の目的を達成するために、全国にわたつて鉄道事業等を経営する(三条)こととされ、その資本金は政府が全額出資し(五条)、その長である総裁は内閣が任命する(一九条一項)などその組織は法定され(九条以下)、その業務は運輸大臣の監督に服し(五二条以下)、その業務の源資となる予算は国の予算の議決の例によつて議決される(三九条の九)など、その設立、組織、業務、会計の全般にわたつて国による厳重な監督等を受けることとされていたものである。これは、国鉄が我が国における基幹的な鉄道輸送機関として、その国民経済、国民生活に占める役割が高度の公共性を有していたことを反映していたものであり、また、この見地から、国鉄の業務に携わる国鉄職員は、法令により公務に従事する者とみなされていて(三四条一項)、職務専念義務も法定され(三二条)、その労働関係については、国家公務員法は適用されない(三四条二項)ものの、民間の鉄道会社の従業員とは異なり、公共企業体等労働関係法の定めるところによる(三五条)とされ、災害その他により事故が発生したときなどには、労働基準法の規定にかかわらず、勤務時間の延長などを命ずることができる(三三条)とされていたものである。右のような国鉄の業務の高度の公共性とこれに携わる国鉄職員の職務の公共性に鑑みると、国鉄法二六条二項の定める市町村議会議員との兼職禁止制度は、それを設けるべき合理的な理由があつたものというべきである。」を加える。

4  同三四枚目表三行目の「原告らは、」の次に「国鉄職員が市町村議会議員に当選した場合には公選法一〇三条一項が適用されないとの」を加え、同一二行目の「解せられない。」を「解せられないし、」と改め、その次に「右のように解してこそ前記の公選法、国鉄法の趣旨を合理的に、かつ矛盾なく解釈できることとなる。」を加え、同行目の「同法」を「公選法」と改め、同行目の「二項が」の次に「繰上補充当選等の場合について」を加える。同裏一行目の「過ぎず、」を「過ぎないのみならず、」と改め、その次に「そもそも立候補に際し事前に停止条件付の総裁の兼職承認がなされていれば、その時点で市町村議会議員との兼職禁止が解除され、その国鉄職員は、公選法一〇三条二項の「法律の定めるところにより当該選挙にかかる議員……と兼ねることができない職に在るもの」に当たらず、同条項の適用の余地がなくなるのであるから、控訴人ら主張のような確認手段を規定しておく必要がなかつたともいうことができ、」を加える。

5  同三五枚目表一三行目の「いうべきである。」の次に改行のうえ、次のとおり加える。

「また、公選法一〇三条一項は、同条項により一定の職にある者について失職効を生ずるものであつて、その法律効果の重大性に鑑みると、同条項に該当するか否かが明確かつ客観的に判断されるべきものであることはもとより当然であるところ、国鉄職員の場合には、右の前提として、国鉄法二六条二項但書により例外的に国鉄総裁の承認がなされ、個々の国鉄職員について兼職禁止が解除されることがあるため、公選法一〇三条一項に該当するか否かが国鉄総裁の兼職承認のいかんにかかつているという関係にあることとなり、右の判断の明確性、客観性の要請を必ずしも満たしていないのではないかとの疑念も生じないではない。しかし、前判示のとおり国鉄法二六条二項、二〇条によれば、国鉄職員は、国鉄総裁の兼職承認を受けない限り、市町村議会議員を兼ねることができないことは明白であつて、これが公選法一〇三条により失職効を生ずる職にある者に当たることは法律上も明確であるというべきであり、右の兼職承認の点についても、後に判示するとおり当選告知のときまでになされるべきものと解されるから、公選法一〇三条一項に該当するか否かも、当選告知のときに客観的に判断することができるものである。そうすると、国鉄職員については、国鉄法二六条二項但書により個別に兼職禁止が解除され得ることがあるからといつて、公選法一〇三条一項の適用がなく、国鉄法二六条二項のみが適用されるとする合理的な根拠は何ら見出すことができないものである。」

6  同三五枚目裏八行目の「いるのであるから、」を「いるのであり、」と改め、その次に「また、公選法一〇三条一項が、当選の告知のときに地方公共団体の議会の議員等の公職との違法な兼職状態を未然に防止しようとしていることは前判示のとおりであるから、これら公選法、国鉄法の趣旨に照らすと、当選の告知を受けるまでに」を加え、同一一行目の「解する。」を「解するのが相当である。」と改め、その次に「そして、当選の告知を受けるまでに国鉄総裁により兼職承認がなされた場合には、公選法の右条項に当たらないこととなり、国鉄職員と市町村議会議員を兼ねることができるものである。」を加える。

7  同三六枚目表八行目の「命じているにとどまり、」を「命じており、」と改め、その次に「労働者が地方公共団体の議会の議員等として公の職務を執行するについても当然適用されるべきものであつて、右は、控訴人ら国鉄職員にも妥当することはもちろんではあるものの、他方、労働者は、その職務を誠実に遂行する義務をも負つているから、その職務の内容、態様等のいかんによつては、」を、同一〇行目の「前記」の前に「公選法、国家公務員法、国鉄法等による」をそれぞれ加える。同裏二行目の「したがつて、」の次に「本件の国鉄職員については、その職務の公共性、職務専念義務等に鑑みて設けられた」を加える。

8  同三六枚目裏一一行目の「国が」から同一三行目の「目的に」までを「前判示の目的をもつて」と改め、同行目の「(国鉄法一条)」を、同三七枚目表三行目の「(ちなみに」から同六行目の「いる。)」までをそれぞれ削る。同行目の「他方、」の次に「市町村議会議員は、憲法上保障された地方自治の原則(憲法九二条以下)を実現するために地方公共団体たる市町村の議事機関として設置された議会(憲法九三条一項、地方自治法八九条)の構成員であり、それ自体極めて重要な職責を担うものであり、右議会が地方自治に関する多岐にわたる事項について議決等を行う(地方自治法九六条以下)こととなつているため、その構成員である議員の活動も議会の定例会、臨時会、委員会に出席し、議決に加わることにとどまるものではなく、地方自治の本旨を実現するために議会に委ねられた多岐にわたる事項について議員として幅広く活動することが要請されているものというべきであつて、市町村議会議員としては右のような高度の公共性を有する職務を地方自治の本旨を実現するという観点から常に全力を傾けて遂行すべきであるところ、」を加える。同裏一〇行目の「審議」の次に「等」を加える。

9  同三八枚目裏八行目の「主張する、」を「主張する。」と改め、同一二行目の「それ自体、」の次に「国鉄職員が当選の告知を受けて市町村議会議員となつた後に日を経て総裁の承認がなされるべきであるとの」を加え、同三九枚目表一行目の「解せられない。」を「解せられないところであるし、」と改め、その次に「公選法一〇三条一項、国鉄法二六条二項を合理的、かつ矛盾なく解釈すると、前判示のとおり国鉄職員は市町村議会議員の当選の告知がなされるまでに総裁の承認がなされない限り公選法一〇三条一項により当然に失職するとの当然失職説を採るのが相当であると解される。」を加える。同行目の「そして、」から同二行目の「許されるから、」までを「そうすると、国鉄法二六条二項但書に基づく総裁の兼職承認は、国鉄職員が当選するか否か未定の段階において、当選の告知がなされることを停止条件としてなされることとなるが、このような停止条件付承認は、市町村議会議員になろうとする国鉄職員にとつては兼職が認められるか否かを選択して選挙に臨むことができ、不安定な状態で選挙活動を行うことを避けることができるなど当選の告知がなされたときの兼職をめぐる混乱を未然に防止できるものであり、しかも、」と改め、同四行目冒頭から同九行目末尾までを削る。同一〇行目の「についても、」の次に「前判示のとおり」を加え、同一一行目の「又は事後」を削る。

10  同三九枚目裏一二行目の「特に、」の次に「国鉄は、前判示のとおり全国にわたつて鉄道事業その他の事業を営業し、国民経済、国民生活と密接に関係する基幹的な鉄道輸送機関としての役割を果たすべきものとされていたのであつて、その業務の内容、業務の及ぼす影響の程度等を考慮すると、その公共性の程度において、民間の鉄道会社をはるかに凌ぎ、電々公社、専売公社と比べても勝るとも劣らず、その間同列に論ぜられないおのずからなる差異があつたのであり、他方、市町村議会は、地方自治の本旨を実現するために多岐にわたる活動を行う極めて重要な機関であつて、国鉄職員がこれら市町村議会議員を兼ねる場合には、本来」を加え、同四〇枚目表四行目の「ものである。」を「ものであるのみならず、」と改め、その次に「右のような特質を有する国鉄職員について地方公共団体の議会の議員等との兼職の取扱いにあたり、前判示の内容の民間あるいは他の公社の労働者と異なつた法律上の取扱いをすることは、それぞれの職務の内容、性質等に照らして、立法政策上の裁量に委ねられた合理的な差別であるというべきものである。」を加える。

11  同四〇枚目裏九行目の「ならない。」の次に改行のうえ、次のとおり加える。

「さらに、成立に争いのない乙第三号証、弁論の全趣旨により原本が存在し、真正に成立したものと認められる甲第九号証、乙第一、二号証及び弁論の全趣旨を総合すると、国鉄は、昭和三九年度に欠損を生じて以来、その経営は悪化の一途をたどり、昭和五五年度には一兆円を超える欠損となり、その経営状態は既に危機的状況を通り越して破産状況に立ち至つており、国鉄に対する国の助成金も年々増加し、国家財政にも長年にわたり大きな負担となるという状況にあつたこと、このような状況の下において、国鉄労使に対して強い社会的、政治的な批判がなされていたところ、昭和五七年七月三〇日に公表された臨時行政調査会(以下「臨調」という。)の行政改革に関する第三次答申においては、国鉄の右破産状況をもたらした原因として、急激な輸送構造の変化への対応が著しく遅れたこと、いわゆる「親方日の丸」経営といわれる事態に陥つたこと、さらに、労使関係が不安定で、ヤミ協定、悪慣行の蔓延など職場規律の乱れがあり、合理化が進まず、生産性の低下をもたらしたことなどが指摘され、国鉄の膨大な赤字はいずれ国民の負担となることから、国鉄経営の健全化を図ることは、今日、国家的急務であるとの認識の下に、国鉄の経営者が経営責任を自覚し、それにふさわしい経営権限を確保し、企業意識に徹し、難局の打開に立ち向かうこと、職場規律を確立し、個々の職員が経営の現状を認識し、最大限の生産性を上げることなどが国鉄にとつて最も必要であり、そのために公社制度そのものを抜本的に改め、責任ある経営、効率的経営を行い得る新しい仕組みとして、国鉄を分割し、民営化することが提言されたこと、また、臨調の右答申においては、国鉄の分割、民営化に移行するまでの間、緊急にとるべき措置として一一項目にわたる提言がなされたが、その中で、職場規律の確立を図るため、職場におけるヤミ協定及び悪慣行(ヤミ休暇、休憩時間の増付与、労働実態の伴わない手当、ヤミ専従、管理者の下位職代務等)は全面的に是正し、職務専念義務の徹底等を図ること、新規採用を原則として停止することなどのほかに、兼職議員については今後認めないこととすることが提言されたこと、政府も、右答申を受けて、国鉄の経営が危機的状況にあるとの認識の下に、同年九月一四日、閣議決定(「日本国有鉄道の事業の再建を図るために当面緊急に講ずべき対策について」)を行い、当面緊急に講ずべき対策として一〇項目の対策を決定したが、その中で、職場規律の確立、新規採用の原則停止等の対策とともに、兼職議員の承認の見直しとして兼職議員については当面認めないこととされたこと、国鉄が、右閣議決定に先立つ同年九月一三日、前示のとおり総裁室秘書課長名による通達(総秘第六六六号「公職との兼職に係る取扱いについて」)を発し、昭和五七年一一月一日以降当分の間、新たに又は改選により、公職の議席を得た者に対しては兼職の承認は行わない旨の一般的方針を打ち出したのは、右のような国鉄の置かれた厳しい状況下においてであつたこと、その後、臨調の右答申の趣旨に沿つて、経営の破綻した国鉄を分割、民営化することによつて国鉄の抜本的な改革を実現するために、昭和六一年一二月国鉄改革法、清算事業団法等国鉄の改革に関する一連の立法がなされ、昭和六二年四月一日、国鉄が分割、民営化されるに至つたことが認められ、右認定を覆すに足りる証拠はない。

ところで、国鉄総裁が国鉄職員と市町村議会議員との兼職を承認するか否かを判断するにあたつては、兼職禁止の原則を定めた国鉄法二六条二項の前記趣旨に鑑み、単に国鉄の業務に与える個別的な影響のほか、国鉄の財政事情、国鉄職員の過不足の状況、その他国鉄の経営状態等諸般の事情を広く斟酌して、その合理的な裁量によつて決めることができると解するのが相当であり、国鉄総裁は業務遂行に著しい支障がない限り兼職承認をすべきであるとの控訴人らの主張は、その根拠を欠き、採用することができないものである。これを本件についてみると、前認定のように、国鉄が昭和五七年一一月一日以降国鉄職員の市町村議会議員との兼職を当面一律に承認しないこととしたのは、既に経営が破綻してしまつた国鉄の再建のためには、国鉄職員にも従前以上に職務に専念すべきことが強く要請されていたところであり、そのために兼職の一律禁止等の緊急措置を採ることを余儀なくされたからであつて、国鉄の置かれた当時の極めて厳しい状況からすると、右の措置は、国鉄総裁の合理的な裁量権の行使として、やむを得ないものであつたということができる。そうすると、右措置により国鉄法二六条二項の定める兼職承認制を崩壊させるとの控訴人らの非難は全く当たらないというべきである。」

12  同四一枚目表一行目の「第一六・第一七号証」の前に「原本の存在、成立に争いのない甲」を、同三行目の「おいて、」の次に「職員が公職の候補者に立候補した場合は、すみやかに立候補届を所属長に提出しなければならず(三条)、また」をそれぞれ加え、同一一行目の「するものであり、」を「するものとして解釈され、」と、同行目の「かなりルーズな」を「前認定のような職場規律の乱れ等によつてかなり杜撰な」とそれぞれ改める。同一三行目の「当然」から同裏一行目の「しかも、」までを「他方、」と改める。同一二行目の「事実上」を削り、同一三行目の「対して、」の次に「事前に兼職の当否について諸般の事情を考慮して判断したうえ、当選の告知を停止条件として」を加え、同行目の「伝達することも可能だつたのであり、」を「伝達していたというべきであり、」と改める。同四二枚目表三行目の「当然失職説を採りつつ」を削り、同四行目の「法的にも」から同行目の「できる。」までを「右のように停止条件付でなされた兼職承認を手続上も明確にしておくためのものであつたと理解することもできるのであり、国鉄における右の運用が、公選法一〇三条一項、国鉄法二六条二項の前記解釈を左右すべき理由はない。そして、従前、兼職禁止、国鉄総裁による兼職承認制が法の趣旨に則して行われてこなかつたのは、前記答申にも指摘されている職場規律の乱れ等に原因があるということもできるのであつて、右のような運用の実態から前記兼職禁止、兼職承認制を定める法の趣旨を左右することは、到底許されないところである。」と改める。

13  同四二枚目裏一一行目の「いうまでもない。」の次に改行のうえ、次のとおり加える。

「また、国鉄総裁が国鉄職員の市町村議会議員との兼職を承認すべきか否かを判断するにあたつては、兼職によつて生ずる個別的な業務の支障の有無、程度に限らず、国鉄の財政事情等の諸般の事情を考慮して裁量権を合理的に行使してこれを決することができるものであること、遅くとも昭和五七年一一月以降国鉄が直面していた状況の下においては、国鉄総裁が一律に市町村議会議員との兼職を承認しないとの方針を決めたことは、合理的な措置というべきであることは、前判示のとおりであるから、右方針に沿つて控訴人らに対し前判示のように門司鉄道管理局長名によつて控訴人らが当選の告知を受ける前に市町村議会議員との兼職を承認しない旨を通知し、いずれも承認しなかつたことは、前認定の本件の事情の下においては、合理的な裁量権の行使とみるべきものであつて、その範囲を越えているものとは到底認められないところである。さらに、このことは、国鉄が分割、民営化された後の新会社において控訴人ら主張の就業規則が設けられたことによつては、何ら左右されるものでないことも多言を要しない。そして、前認定の本件事情の下においては、国鉄総裁が控訴人らについて市町村議会議員との兼職を承認しなかつたことが労働条件に違反するとか、権利の濫用に当たるとかの事実を窺うこともできないのであつて、国鉄総裁による右承認にかかる行為が違法、無効であるとする控訴人らの主張は、いずれもその前提を欠くものであつて、到底採用することができない。」

14  同四三枚目表一行目の「ものであり、」の次に「当選の告知を受けるまでに」を加える。

二  よつて、原判決は相当であつて、本件控訴はいずれも理由がないから棄却することとし、訴訟費用の負担につき民訴法九五条、八九条、九三条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 松田延雄 湯地紘一郎 升田純)

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